初恋タイムスリップ(成海side)
もう2学期も終わりに近づいた、ものすごく寒い日の放課後、
篤志といつもの練習メニューをこなして、
片付けをしていた。
ふと、ピアノの音がしてきて、俺は校舎を見上げた。
すると、音楽室の電気がグランドピアノの上の部分だけついていた。
そしていつもなら暗くなる前に帰ってしまう桜木が、
まだ、ピアノを弾いていた。
空は真っ暗なのに…
俺は気になりながら、片付けと帰りの準備をした。
バッグを肩にかけ、階段を昇っている最中も、
ピアノの音が聞こえていた。
今日はずいぶん、長く練習しているんだな…
俺は階段を昇りきったところで、立ち止まった。
「あのさ…篤志」
篤志は、ふにゃっと笑った。
俺はまた「ぶっっ」と笑ってしまった。
「だからなんなんだよ。
その顔…」
「頑張れよ、成海」
篤志は変顔から、一瞬で真面目な顔になって言った。
「じゃあな」
篤志はポンポンと、俺の肩を軽くたたいた。
そして、校門の方へ向きを変えて、
篤志は帰っていった。