短篇
柔らかいカーペットが足音を消して、静かに静かに、海ガメへ向かう。
海ガメが泳ぐ大きな水槽の中には、岩で出来た洞窟が端に備え付けてある。
水の中で魚のように息ができるのなら、ぜひともその洞窟の中で眠ってみたい。
きっと素敵だ。
海ガメは優雅に、まるで鳥のように水中を飛んでいる。
私の頭よりもはるか上で泳ぐ海ガメが、ぐん、と音がするくらいに急に方向を変えた。
海ガメが真っ直ぐに前足を掻いて、私めがけて突進してきたのだ。
「ひゃっ」
ぶつかることはなくても、どきっとして後退りする。
まずい。
背中に感じる鼓動に冷や汗が出る。
それは、私のものではない、僅かに荒い息で背後に立つ、彼のもの。
私を逃がさないよう、水槽に付いた両腕。
「十一時、五十三分」
まるで牢屋のように。
「――俺の勝ちぃ」
私を閉じ込める。
「約束したよな」
丸い目で私達を一瞥した海ガメはゆっくり遠ざかる。
「俺のこと、好きになれよ」
水槽に映る太陽の顔はにやりと笑った。
ゲームセット。
私の負け。
でも、知ってた?
私も好きなのよ?
君のこと。
海ガメが泳ぐ大きな水槽の中には、岩で出来た洞窟が端に備え付けてある。
水の中で魚のように息ができるのなら、ぜひともその洞窟の中で眠ってみたい。
きっと素敵だ。
海ガメは優雅に、まるで鳥のように水中を飛んでいる。
私の頭よりもはるか上で泳ぐ海ガメが、ぐん、と音がするくらいに急に方向を変えた。
海ガメが真っ直ぐに前足を掻いて、私めがけて突進してきたのだ。
「ひゃっ」
ぶつかることはなくても、どきっとして後退りする。
まずい。
背中に感じる鼓動に冷や汗が出る。
それは、私のものではない、僅かに荒い息で背後に立つ、彼のもの。
私を逃がさないよう、水槽に付いた両腕。
「十一時、五十三分」
まるで牢屋のように。
「――俺の勝ちぃ」
私を閉じ込める。
「約束したよな」
丸い目で私達を一瞥した海ガメはゆっくり遠ざかる。
「俺のこと、好きになれよ」
水槽に映る太陽の顔はにやりと笑った。
ゲームセット。
私の負け。
でも、知ってた?
私も好きなのよ?
君のこと。