短篇
ゲームフェイス
麻里奈、麻里奈と何度もその声は呼ぶから、仕方なく返事をした。



「ごほうびちょうだい」



手を広げ、太陽が催促している。



「なにを」



というより、人の職場の店先で堂々と私語として話しかけるのはいかがなものか。


運良く店長は休憩に入っていたからいいものを。



「今日ワンマンやるから。がんばれとおめでとうの気持ちを」

「おめでとう。そしてがんばれ」



私はちょうど手にしていた花を一輪、太陽の手に握らせてやった。



「花は要らねぇよっ」



それはそれは大変不服そうに、渡した花を振り回す。

まるで指揮棒を気が狂ったように巧みに振る指揮者のようだ。



「花屋の店員に、花は要らないって言われても困るんだけど」

「ああもうっ、わっかんねぇ奴だなお前も」



私は割と察しの良い人間だ。
彼が言うような「分からない奴」じゃない。

なんとなく、彼の望みが分かったので敢えてしらばっくれているだけだ。



「……キスもハグも、成功させなきゃしてあげない」

「ケチ!」



ケチじゃないわよ。
だってほぼ確定なご褒美じゃないの。


END
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