万年樹の旅人
ジェスが声をかけると、驚いたように女性が顔を上げた。
きょとんとジェスを見上げる琥珀色の瞳が濡れている。
「え、あ……あなたは……」
「申し遅れました。わたくしは、第三騎士団に所属する――」
「あ、いえ、あなたのことは存じております!」
ジェスの言葉を遮った彼女の言葉に眉根を寄せた。
「わたくしを、ですか?」
「ええ、よく噂で」
涙の痕を残したぎこちない笑顔で、ジェスの風貌を眺めるように見た。
――なるほど。そういうことか、とジェスは落としたいため息を呑み込み、自身の異を思い出し思わず口を噤んだ。
墨を流し込んだような漆黒の髪は短く、陽に焼けたというには過ぎたる褐色の肌。穏やかな弧を描く双眸は黄金色をしていた。感情は乏しく希薄な雰囲気を出しながらも、それでいて尋常ではない存在感を放つ。それは彼の内が放つものなのか、それとも異質な容姿がそう見せているのかはわからない。
ラナトゥーンの人間は、色白の肌に薄い色素の髪が基本だ。ジェスのように、漆黒の髪を持つ者も、褐色の肌を持つ者も、少なくともジェスの周りでは見たことがない。
初めてジェスを見た者は、ほとんどが眉を顰める。そうして口々に影ながら言うのだ。異質の血が混ざっている、災いの色だ、と。だが山麓の村に残してきた貧しい両親は、他の家族と変わりのない普通の父母だ。漆黒の髪でもなければ褐色の肌でもない。だからといって両親にジェスの容姿のことで嘆かれたこともない。外見を除けばどこにでもいる普通の子供だった。