万年樹の旅人
(噂……か)
だが黄昏れてやるものか、と思う。嵐に晒されようと、人の靴裏に踏み潰されようと、決して枯れることのない万年樹の花のように。しぶとくしたたかにと決めた。そうでなければ自分を産んだ両親に失礼だ。ジェスに叩きつけられた非難を自分のことのように胸を痛める両親を見ていればこそ。
隠しきれなかったジェスの自嘲を見た女性は、慌てたように首を横に振る。
「あ、いいえ! 決して悪い噂じゃないの。ごめんなさい、気を悪くなされたかしら……」
おろおろと立ち上がり、わかりやすいほど真っ青になりながらジェスを見上げる。
「とんでもありません。一応これでも騎士団に所属する身です。その程度の瑣事に気を割いているようでは、いざというとき命取りになります。それに、貴女様が気にするようなことは何もありませんよ」
ジェスが静かに微笑むと、女性は安堵し、そういえば、と言葉を重ねた。
「ごめんなさい。まだ名乗りを上げておりませんでしたね」
ジェスは目を見開き、続いて声を上げて笑った。
「この城にいる者で王女様をご存知ない者はおりませんよ。――第一王女様のルーン様でございましょう」
――ええ、とルーンが頷くのと同時だった。