万年樹の旅人
目を閉じても、瞼の裏には同じ教室の子供たちのせせら笑う姿が消えない。嫌だ嫌だと思えば思うほど、彼らの姿は強く、鮮明に出てくる。学舎に行く前日の夜は決まって眠れないことが多い。
重ねてあの毎日見る夢だ。辛い夢ではないが、やはり不安のひとつには変わらない。ただの夢だと思えるには、まだユナは幼く、想像力が豊かすぎたのだ。
瞼を閉じても眠れない時をどれくらい過ぎた頃だろうか。ふと、歌が聴こえてきた。
綺麗、とは程遠いしわがれた声。だが、妖精の歌よりも、天使の囁きよりも、ユナにとっては何よりも大好きな声。もっとずっと幼い頃は、毎晩歌って聴かせてくれたラムザ爺さんの歌だった。
違う国の言葉で歌われた歌は、何を伝えようとしているのかはわからない。だがきっと優しい歌詞なんだろう、と思う。
小さい頃は、眠れない晩に歌って聴かせてくれた。そうして、布団の中で、ラムザ爺さんが背中を撫でてくれながら、深い眠りについたのを思い出す。どうしてか、涙がこぼれた。
きっとユナの姿がないことに気付いたに違いない。だから歌を歌ってくれているのだ。そう思ったら、この掠れた声がとても綺麗なものに思えた。
歌はそれからしばらく続き、ラムザ爺さんが歌をやめるよりも先に、ユナはうつらうつらと深い眠りに落ちていった。