万年樹の旅人


 ジェスはかれこれ、数時間ほど前から気持ちが浮ついていた。

 いつの間にか、正午の自由時間はルーンと会うことが日課となってしまった今も、ジェスの足は屯所から庭園へと向かっている。右の手はしっかりと握られ、その中には赤い花の髪飾りがあった。

 いつものように、街へと買出しへ下りたときだ。普段買出しに利用する店をいくつか回り、そのつど抱える袋に重みが増していく。そうして屯所へと戻ろうとした矢先のことだった。たまたま目にした店に並べられていた、輝かしい装飾品。男のジェスにも、若い女性向けに作られたのだとひと目でわかるデザインだった。

 普段ならば、自分とは縁のない店。素通りするだろう店なのに、その日はなぜか足が止まった。

 少し前、ルーンはお気に入りだと言った髪飾りを風に飛ばしてしまったのだ。飛ばされた当初は後から探す、と笑っていたのだが、実際リュウを交えて探してはみたが、思っていたとおり案の定見つからない。ルーンの表情が、わかりやすいほど落胆していたのを思い出す。更に加えて、最近のルーンは常に鬱屈とした表情でいることが多い。理由を訊ねてみれば、彼女の兄、アズの誕生日の催し物が近いのだ、と洩らした。そう思いを巡らしていると、ひとつの髪飾りに視線が止まった。
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