万年樹の旅人

 瞼に痛みを覚えるほどの、強い光が闇の空間を包んだ。反射的にユナは目をつむる。このとき初めて自分の体が動いている、と自覚した。だが喜びとどうしてだろうという疑問が浮かんでくる前に、暖かい光が瞼を撫でるようにして触れ、ユナは目を開けた。気がつけば元いた場所とは程遠い、金色に輝く森の中にユナは佇んでいた。

 思わず声が漏れてしまうほど暖かく、そして明るい場所。見たこともない樹木の枝は地に向かって伸びるように垂れ、生い茂る葉はどれも金色の光を放っていた。繁々と生い茂る金緑の草地をユナは一歩、また一歩と進み歩んだ。柔らかい土の上を覆うように生える草のほとんどが細長く、歩くたびにユナの足首をくすぐる。草の隙間から覗く花は、ユナが見たことのある花とはどれとも重ならず、風もないのにゆらゆらと気持ちよさそうに揺れていた。ユナの気配を感じ取るようにして、足元の花から金色の粒子がふわっと舞い上がる。どこからか、うっとりするほど甘い香りも漂ってきていた。

 暗い陰湿な空気を纏うあの場所とは違い、まるでユナは実際にそこにいるかのようだった。手も足も動けば、花の香りも土の匂いも感じ取ることができた。ユナは物珍しげに辺りを見渡しながらゆっくりと歩いた。落ち着いてよく見てみれば、珍しいのは花だけではない。太い幹にぎっしり生えた金色の苔も、青いはずの空が金色なことも、そのどれもがユナの知識の外にある。普段の警戒心はどこにいってしまったのか、思わずすっと手が伸びてしまう。指先に触れた樹の幹はほんのり温かく、重なり合う葉はユナが触れる前から踊るように揺れていた。見える全てのものが金色に発光していて、ユナの興味を一心に引き、泣き出してしまうほどの恐怖などすっかり忘れていた。ちょうど春の半ばごろの季節と同じくらいの暖かさで、歩き続けたユナの額にうっすらと汗が滲んだ。
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