万年樹の旅人
何事かと、視線を巡らせば、ざわめきの中心となるのは、長い渡り廊下のずっと向こう。アズがこちらに向かって歩いているところだった。白いシャツのボタンはしっかりと全部留められ、ゆったりとしたズボンは若草色。首から下げられた飾りの真ん中には金色に輝く宝玉が埋め込まれ、力仕事とは無縁な綺麗な指にはいくつもの指輪が嵌められていた。ルーンは度を越えた贅沢を厭う。だがアズは全く正反対で、驕侈を極めていた。
すれ違いざま、周りにいた者が、突然のアズの登場に戸惑い硬直する。咄嗟の出来事で、叩頭することすら忘れているようだった。中には、道を開けることすら忘れてアズの姿を見入ってしまっている者すらいた。
王族は、基本的に城の外に出ることはない。姿こそ知ってはいるものの、直接お目にかかれる機会など滅多にない。ルーンがこうして庭園にやってくるという行為は、極めて稀なのだ。
涼しい笑顔を浮かべたままルーンの目の前までやってくると、無言でアズを睥睨するルーンを通り過ぎ、ジェスの前で立ち止まった。ルーン、そしてリュウを見渡し、最後ジェスで視線を止めた。
「楽しそうだね。私も交ぜてはくれないかな」
「……何しにきたのよ」
ルーンの言葉に、一瞥をくれて微笑んだだけだった。再びルーンに背を向けると、目の前のジェスを見た。
「君にお願いがあって今日は来たんだ」
「わたくしに、ですか」
「そう」
端的に頷き、笑んだ。