万年樹の旅人
気安い笑顔だった。だが、その裏にどす黒い感情をひたすら隠している、ともジェスは感じた。確かに笑っている、笑っているのに――ジェスは以前にも感じた、薄気味の悪い恐怖を覚えた。思わず目をそらしたくなるような、ラナトゥーンには冬は訪れないが、もしあるのだとしたら、きっと、冬場に触れる水のような冷たさなのだろう。
「私の誕生日が近いことはご存知かな?」
「ええ……」
近頃ルーンの表情が優れなかった。アズの誕生日が近いのだと、その場は身内のみのパーティーではあるものの、アズとしてではなく「国王」としての祝いの席だということも聞いていた。その隣に、自分の席がある、と泣きそうな顔で訴えてきたのはまだ記憶に新しい。
「是非ともその席に、君とご友人の方にもご出席を願いたいのだが、どうかな」
ジェスとリュウを交互に見比べ、そしてやはり微笑んだ。
思いも寄らない言葉に、ジェスは言葉を失い、リュウは眉根を寄せて怪訝そうな表情でアズを見つめた。
いわば新王お披露目の席といっても過言ではない。たとえ騎士団に所属しているとはいえ、ジェスやリュウのような最下位ランクの者が参加するということは、ありえないことなのだ。騎士団長、ならびに国王の近辺を護衛する者、たった数えられるほどの限られた人数のみが許される場所。それをアズ本人から出席を望むなど、驚愕を通り越して畏怖すら覚える。
「――アズ。あなた何を企んでいるの……」
真っ青な顔をしたルーンが震える声で絞り出す。
「なにも」
「出る必要なんかないわ!」