万年樹の旅人

「ルーン、君のお客様ではないのだよ。私が望んでいるんだ」

 でも、と呟いたルーンの声は、風に叩き落された万年樹の葉と同じくして静かに地面に落ちた。

 しばしの後、リュウが重い沈黙を破った。

「畏れながら、我々の一存だけでは判断することはできません」

 ルーンの表情がぱっと輝く。だが打ち捨てるように、アズは首を横に振った。


「騎士団長殿にはすでにお伝えしてある。私が望むのならば、と」

「……なぜそこまでしてジェスたちを招きたがるの!」

「なぜ? 君と親しくしてくれている者たちを招いてなにを不審に思うのかい」


 ルーンの恨みの篭った視線を受け流し、穏やかな面持ちでジェスを振り返った。


「そういうことで、出てはくれないかな」

「――はい。そう、お望みでしたら喜んで」

「そうか。ありがとう、嬉しいよ。パーティーは城の中の庭園で執り行われる。当日は案内をよこそう」


 城の中の庭園――ああ、たった一度、騎士団に所属が決まった際、城の中をひと通り案内されたときに、立ち寄ったことがあるかもしれない、とジェスは広い庭園を思い起こしていた。最初に案内された屯所がいくつ入るのかわからないほど壮大な庭園だった。白いテーブルクロスを敷かれた横長のテーブルがいくつも並び、辺りには季節の花々がたくさん咲いていた。王族の方がここで食事をとられ、また催事の際にはこの庭園に溢れんばかりの人で埋め尽くされるのだと教えられた当時は、ちょうど薔薇が見事に咲き誇る季節だったのをジェスは思い出した。

 庭師と、催事の警備を任される者しか立ち入れない場所と聞き、おそらく自分は二度とお目にかかることができないだろう、などと考えていた。それがこんなことになろうとは、誰が思おう。
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