万年樹の旅人
うっすらと開けた視界に映った自分の姿に、驚きのあまり両手を離してしまった。けれどルーンの体は、風に流されることはなかった。
白い肌はほんのりと金色に輝いていた。葉を光に透かしてみたときのような、葉脈のように細かい筋が何本も肌の上を走る。首にも腕にも、破れたドレスから覗く太ももにも、同じような筋が流れていた。また、万年樹から垂れる枝や葉が、ルーンを縛り付けるように絡みつく。かろうじて目も開けられるし、きっと声も出る。けれど、悲鳴も叫び声も、今のルーンには声にならなかった。冷水をかけられたような冷たさが、ルーンの全身に広がった。
『ごきげんいかが、ルーン王女』
不意に声が聞こえた。明るく、子供のように幼い声。だが、ひどく恬淡としているようにも感じた。
動かせる範囲で視線を巡らせ声の主を探す。けれど、万年樹の辺りには誰一人として人の姿はない。
すると、さきほどの声が笑った。
『わたしは万年樹と呼ばれる生命』
「万年樹……?」
掠れた声で訊ねると、声が頷いたような気配を感じた。
『ルーン王女の願いを叶えようと思う。けれどその前にいくつか確認したい』
言って、突然声に鋭さが滲んだ。硬直して何も言えないでいるルーンを無視して、声は続けた。
『あなたたち王族の願いは、本来叶えられるものではない。ルーン王女に非はないけれど、祖先がしでかした罪は重い。――だからこそ、王族(あなた)たちの願いには、代償が必要。それはご存知か』
「ええ」
しっかりと目を開け気丈に頷くルーンを見て、声は静かに「そうか」と呟いた。
『ではもうひとつだけ訊かせて。全ての命を犠牲にしてでも叶えたいものか?』
今度は瞳を伏せて静かに頷いた。