万年樹の旅人
突然声をかけられ、人がいるとは思ってもいなかったユナは、心臓が飛び出るほど驚いた。
動悸が治まらぬ胸に手を置き、一歩下がる。無意識のうちに随分と遠くまで歩いたらしく、少し前まで気配すらなかった大樹、万年樹がユナの目の前にあった。人間の胴回りほどある太い枝が、空へ向かったり地面へ向かったりと、あちらこちらの方向に伸びている。たくさんの葉が重なり合い、濃い影を辺り一面に落としているというのに、飛散する粒子や、それぞれの輝かんばかりの金色が、暗さを全く感じさせなかった。それどころか、影を濃く落とす万年樹の近くは、他のどこよりも明るいように思えた。あと数歩で鼻の頭がぶつかる、というところで声に止められた。ちょうどユナの目線と同じ高さの幹から、女性の――ルーンの体があらわになっていた。
「ルーンさま……?」
恐る恐る尋ねると、ルーンが微笑んだ。けれど、ユナはどこか違和感を覚えた。ルーンは――夢の中でユナが見てきたルーンは、もっと顔全体を崩して笑う女性だった。口元を隠して笑いなさいって口うるさく言われるの、と夢の中でジェスに愚痴っていたのを覚えている。けれど、今目の前にいるルーンは、朝になれば枯れてしまう花のような微笑だった。笑顔がすうっと消えてしまったルーンの表情は、とても冷たく思えた。
「ずっとずっと探してた。あなたとこうして会うことだけを願って――たくさんの罪を犯してしまった」
「罪?」
ユナが首をかしげるような仕草をし、ルーンに訊く。するとルーンは綺麗な眉をさっと歪めた。ユナを見つめながらも、遠くを見ているような目には、暗い色が浮かんでいた。