万年樹の旅人
「――ジェスは、殺されてしまったから知らないのね、わたしは――」
「ルーンさま」
何か言いかけたルーンを制し、ユナは強い口調でルーンを呼んだ。
落ちかけていたルーンの視線が上がり、ユナを見つめると、無言で「何かしら」と尋ねるように、ユナの言葉を待った。その表情には、まるで感情が見えない。万年樹の枝や葉によって動かされている、操り人形のように見えた。
「僕は、ジェスじゃありません。ユナ、です」
何を言っているのかわからない。黙ってしまったルーンの瞳がそう告げていた。しばらくの間を置いたあと、ルーンは首を横に振った。
「……あなたは間違いなくジェスよ。わたしが長い時間をかけて見つけた、ジェスの魂を持って生まれた人間なの。わたしが間違えるはずないもの。それに、アズの魂に狙われていたのがその証拠」
今度はユナが呆けた。ぽかん、と小さな口を開けたままルーンを見つめる。
(アズに狙われてた……? 僕が? いつ?)
ルーンは本当に自分と誰かを間違えているのではないだろうか。自分がジェスの夢を見ているのをどこかで知って、ただ単に勘違いしているだけではないのかという思いが、ユナの意識を占めていた。
だが、次の瞬間、脳天に一本の光がさしこんできた。ひとつの可能性を突然に見出し、鼓動がせわしなく動く。胸が破裂しそうなほど緊張した。
(もしかして……)