万年樹の旅人
金色の双眸が、今も鋭い視線でユナを監視しているように思えた。冷たい汗が背中を滑り落ちるのを感じながら、視線だけで辺りを一瞥する。もし今も自分の姿を遠くから見つめていて、ただ息を潜めて機を窺っているだけだったら。あの生臭い息を、途端に思い出して顔が青ざめる。そう考えたら肺がきりきりと軋んだ。けれど獣の姿は見当たらない。呼吸を落ち着かせるために息を吐く。姿がないことに安堵しつつも、ユナの慎重な性格のせいか、完全に安心できないでいた。
そんなユナの様子を見て、見透かしたようにルーンが言った。
「大丈夫。ここはわたしの能力のほうが強いの。だからアズが襲ってくることはないわ」
笑顔で囁いたルーンを見て、ようやく呼吸が落ち着いていくのがわかった。手足を縛っていた縄を解いたように、すっと心が楽になっていく。
普段のユナならば、きっと言われてすぐに納得することはなかっただろう。だが、ユナはルーンという女性をよく知っていた。慌て者で、何かにつけて先走るふうにも感じたが、しかし愚かではない。嘘をついてまで、人を安心させようと、そういった気の使いかたをする女性ではなかったように思う。だからこその信頼だった。他人からすれば、たかが夢の中の住人だろう。しかし、ユナの中ではしっかりと生きている。こうして目の前にして、話をしていることは、ユナにとっても信じられないことだが、それ以上に自分の感覚が本物だったという嬉しさを隠せずにいた。夢が続けば、それはもうユナにとって現実なのだ。