万年樹の旅人
「ジェス」
ユナは、目に苦笑を浮かべてルーンを見た。
変わらずユナをジェスだと言い切るルーンの表情は、いつになく真面目だった。
「わたしは、あなたとここでずっと一緒に過ごしたい」
ユナは目を丸くした。
「ここ、で……」
細い声で呟くユナに、ルーンは頷いてみせた。
「ここなら、わたしが望む限りずっと生きていられる。苦しいこともなにも考えなくていいわ。お腹も減らないし、眠りたいときに眠って起きて、お話だってたくさんできる」
ユナは軽い眩暈を覚えた。
何も考えなくていい――そう聞いたとき、学舎での生活がぱっと脳裏に浮かんだ。こそこそと陰でユナを見て笑う生徒たち。自分らの着ている服と違うと笑い、動物の臭いがすると言ってあからさまに顔をしかめる。表立っていじめられたことはないが、いつもあの重苦しい空気の中にユナはぽつんと沈んでいた。
それらから開放されたら、どれだけ嬉しいか。
ユナがいなくなれば、ラムザ爺さんだって貧しい思いをしなくてもすむ。育ち盛りの子供に、あれこれと頭を悩ませることも、きっとなくなるだろう。