万年樹の旅人
一瞬の迷いを見せたあと、ユナは再び続けた。
「辛いことがあるから、ラムザ爺さんの歌も一緒に食べるご飯も美味しいって思えるんだよ。ルーンさまは、昔そうじゃなかった? 嫌なこと、なんにもなかった? 僕、夢でルーンさまが笑ってるとこ何度も見たけど――今は全然楽しそうに見えない」
ユナが言い終わらぬうちに、ルーンは両手で顔を覆い、声を上げて子供のように泣いた。覆う両手に涙が伝う。細かく震える肩に、金色の細い枝や葉が慰めるように触れた。
その途端、空気がざわめき始めた。
波のさざめきにも似た葉擦れがさぁっとおこり、辺りが騒がしく動き出した。白んだ光の中を泳ぐ粒子もせわしなく動き回り、光の尾を引いている。金色の森に、流れ星のような光が溢れた。彼らはまるで生きているようだった。「大丈夫?」とルーンに問いかけているみたいだ。
ルーンの泣き声を聞きながら、ユナはぼんやりそんなことを考えた。
そして、夢の中のルーンと今目の前にいるルーンとがようやく重なったように思う。
(僕を探してって、どれくらい探してくれていたのかな)
不意にそんな思いが胸に落ちた。
ここは暖かくて何不自由ない世界。けれど、人間味のない薄い世界にも感じる。周りに人がいなければ、動物も鳥もいない。何を楽しみに生きていたのだろう、と考えてユナの心に侘しさが広がった。たとえ学舎が苦しいものだとしても、自分の周りにはたくさんの人たちがいる。動物だって、植物だって、みんな毎日違う顔を見せてくれた。それがある自分のほうが、きっとずっと幸せだった。
たった一人だけで、ずっと自分の魂を探すだけのために生きていたのなら、とても寂しい。