万年樹の旅人
「ユナ、ひとつ訊いていいかしら……」
初めて自分の名前を呼ばれ、心の中に暖かい光がともった。笑顔で大きく頷くと、ルーンは嗚咽まじりの声で言った。
「ジェスは――わたしのこと、どう思っていたのかしら……」
声が次第に消えるように小さくなったのを見て、ユナを目を見ひらいた。
(あんなにわかりやすかったのに。……自覚がなかったのかな)
まだ初恋も経験していないユナでさえ、ジェスの気持ちは痛いくらいわかった。視線はいつだってルーンを追っていた。アズがルーンを大切にしているのを知ったとき、心臓をわしづかみされたような痛みだって、ユナは自分のことのように感じていた。
だが、ジェスの心に、いつも矛盾があったのも確か。
知られてはいけない、想ってはいけない、と。
「僕はジェスじゃないから、はっきりとはわからないけど、でも、ジェスはいつもルーンさまを見てました。夢の中で、僕はルーンさまに恋をしていました。……夢から覚めて、現実に戻っても、ルーンさまに似た女性を見ると、どきっとしたくらいです」
照れて微笑む少年の瞳を見て、ルーンは言いかけた言葉を飲み込み微笑んだ。そして俯き「ありがとう」と呟きを落としたあと、深呼吸をすると、歌を口ずさみ始めた。
散々に泣いて、掠れてしまった声で聴こえる歌声は決して綺麗とはいえないけれど、ユナはとても落ち着いた。