万年樹の旅人
夢の中で、狂おしいほど彼女の心を渇仰していた。指先が触れるたび、強引に腕をひかれるたび、ジェスの欲心は深くなっていた。抑えようと思えば思うほど、想いは膨らむ。そんなジェスの気持ちを自分のことのように重ねていたけれど、今は違う。
(このこと教えたら喜ぶかな)
ユナは笑いをこらえて、胸中で首を振った。
けれど教えない。そんなことを言ってしまえば、また泣いてしまうかもしれない。歌だってやめてしまうだろう。今はこの、揺り籠に揺られているようなふわふわとした心地に身を委ねていたい。伝えるのは、また今度ルーンを探し見つけたときにしよう。そう考えたら、未来が考えていたものよりもずっと楽しいものに思えた。
ちょうどルーンの真下にあたる位置――自分の太ももほどもある根の間に腰を下ろして瞳を閉じた。あれほど強かった風も今は信じられないほど穏やかになっている。背中に感じる温かさは、万年樹が放つ温度なのか、それともルーンの体温なのかわからないが、ユナに安堵感と眠気を誘った。
しばらくして、うつらうつらと頭が下がり始めた頃に、瞼に柔らかい手が触れた。目を開けて確かめようとしたが、あまりの眠気にそのまま瞳を開けることはなかった。
ユナがとろけるような眠りに落ちていく途中、ルーンの歌声だけは、しっかりと耳に残ったまま消えることはなかった。