万年樹の旅人
静かな目覚めだった。
ラムザ爺さんが夕飯によく作ってくれる、鶏と野菜を煮込んだ料理の匂いがユナの鼻の奥に飛び込んできて、肌に触れる空気は鋭い冷たさを含んでいるというのに心はとても温かかった。
よく耳を澄ませば、歌が聴こえる。
ユナはゆっくりと目を開け、視線だけで辺りを見渡した。懐かしい景色だった。もしかしたら、たった数日、いや数時間しか経っていないかもしれない我が家。天井の木はもうぼろぼろで、頻繁に掃除をしているユナの部屋ですら、かび臭さは消えない。以前は、そのことが少し気に入らなかったけれど、今はなんだかそれすらも愛おしく思えてくる。
もう日は落ち始めているらしく、狭い部屋にたったひとつだけある丸い出窓から外の景色が窺えた。うすぼんやりと空が暗み始めている。まだ遠くの山間は、明るい橙色が完全に消え切ってはおらず、その景色を見た瞬間、自分はやっと帰ってこれたのだと実感した。
ラムザ爺さんが、夕飯の準備をしながら歌っているのだろうか。目を覚ましたときからずっと聞こえる歌は、途切れることなく離れたユナの部屋にまで届いてきていた。夢の中で聴いていた、ルーンの歌ったものと同じ旋律の、懐かしい歌。やはり歌詞はわからないけれど、今まで以上にこの歌が優しく聴こえた。
薄い布団の中にじっと横たわりながら、再び瞳を閉じようとした刹那、ラムザ爺さんの歌がぷつりと途絶えた。同時に、聞きなれない声がユナの耳に聞こえてきた。