万年樹の旅人

「まだ起きてこないんですか?」

「医者が言うには病気じゃあないらしいから、そのうち目を覚ますだろう」


 言いながらラムザ爺さんが笑っている気配を感じた。

(この声は……)


「それよりも、悪いのう。今日は飯を食べていってくれんかの」

「いや、あいつの様子みにきただけだから……」


 鋭さの中に、まだ幼さを残る声。ぴしゃりと切り捨てるような喋り方を聞き、ユナは頭の中に一人の少年の顔が浮かんだ。

(ニコル?)

 そっと息を潜めて、聞こえてくる会話に集中した。

「あいつが起きたらさっさと学舎に来いって言ってやりてぇんだよ。あいつ、オレと話してる途中で倒れやがった」

「そうか。おまえさんみたいな友達がいるなら、そろそろ起きてくるだろうよ」

 ラムザ爺さんの控えめな笑い声が聞こえ、やがてニコルが「それじゃあ今日はもう帰る」と言って、それきり静かな時が訪れた。
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