恋想曲 ~永遠の恋人へ~
目に涙を溜めた私に、遼ちゃんが遠くから優しく微笑んでくれた。


私、今になって私らしくないことをしてる自分に気づいたんだ。


いつも周りの動きに付いていくように行動してた私が、みんなの前に立って自分の思いをぶつけてる。


私、こんなふうに気持ちで動けるんだね…。


新しい自分を見つけられたような気がした。




「そうだよ。嶌田部長はコンクールに出ることを望んでるはずだ」

「うん。私もそう思う」


顔をあげて話し始めた先輩たち。



「そういえば、『みんなはどうしたい?』ってミーティングの時は必ずみんなの気持ちを嶌田部長は聞いてくれたよな…」


東先輩が思い出しながら優しい表情で呟いた。


「私、嶌田部長の分もコンクールで演奏したい!」

「僕も同じ気持ちです」

「私も!」


みんなの声と表情に明るい兆しが見え始めた。



だけど、大きな問題が残ってたんだ。

「嶌田部長のパートはどうする?代わりができる人いないし、指揮者だって…」


演奏するには絶対に欠かせない席が二つも空席になってる。

この席を埋める手段が見つからない。


みんなが頭をかかえてると、一人が立ち上がって叫んだ。


「僕がやります!」


声の元にみんな一斉に振り向くと、視線の先には信汰が立っていた。


さっきの泣き出しそうな信汰の顔が思い出せないくらい力強い目をした信汰。


「お願いします!僕にやらせて下さい!!」


信汰は深々と頭を下げた。



そんな信汰の姿を見て、誰も声をかけることが出来なかった。


いくら信汰のレベルが高くても、すぐに演奏できるような曲じゃない。


そんなことはいつも嶌田部長を見ていた信汰が一番わかってるはずなのに…。


みんなの動揺が空気になって信汰に伝わってるのに、信汰は頭を上げようとしない。



見かねた二年生の副部長の山崎先輩が信汰に近づこうとすると、反対側から床を擦る椅子の音が響いた。



< 142 / 326 >

この作品をシェア

pagetop