恋想曲 ~永遠の恋人へ~
三年生が抜けたブラバンは、思っていた以上に寂しかった。

まるで炭酸ジュースが微炭酸になったみたいだった。


それに遼ちゃんがいない音楽室。

いないってわかっているのに、つい見てしまう窓際の遼ちゃんの指定席…。


大好きなトランペットを吹いてるのに、胸の中がずっと寂しかった。





優柔不断な私はいつも買い物に時間がかかるから、練習時間が終わると麻衣子と二人で急いで時計屋さんに向かった。



「時計屋さんに来るなんて久しぶり。けっこう種類があるんだね」

お店に入った途端、いろんなデザインや機能の付いた時計たちが勢ぞろいしていた。


やっぱり急いで来て良かった。この中から一つを選ぶにはかなり難しい…。

そう思いながら時計を眺めてると、ガラスケースの中のひとつの時計に目が止まった。


秒針が深い青色をした藍色のバンドの時計。


「この時計にする!」

一目で気に入ったその時計は、まるで遼ちゃんの腕に付けられるのを待っていたかのように思えるほど遼ちゃんに合った色だった。

特に秒針の青色が、幼い日に一緒に歩いた空の色と重なって見えて、この時計しかない!って思えた。



「葵が一目で決めるなんて珍しいね。私もこの時計小川先輩に似合うと思うよ!」

「ありがとう。私もそう思うんだ」


貯めてきたお小遣いでギリギリ買えた腕時計を、小さな箱に入れて白いリボンでかわいくラッピングしてもらった。



きっと遼ちゃん喜んでくれるよね。


明日の朝、会ったらすぐに渡そう。



時計をつけた遼ちゃんの喜ぶ姿を想像して私の胸は膨らんだ。





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