純愛☆フライング―番外編―
どれだけ巽に教えてもらっても、志穂には作ることができない。

料理も絵や音楽と一緒で、センスや才能が必要だと思う。

志穂は介護の専門学校に通い、児童福祉科で学んでいた。保育士と介護福祉士の資格を取り、障害児の通う施設で働くのが目標だ。

保育士に歌とピアノは必須である。ピアノが楽譜どおりに弾けるが、とても専門の人には敵わない。料理もそうだ。レシピどおりに作っても、出来上がりは決して同じじゃない。


「わたしのチョコがイヤならそう言ってよ! どうせ、彼女から本命チョコもらってるんでしょ? 迷惑かもしれないけど……せめて昔みたいに、ありがとうって受け取ってくれたっていいじゃない!」


志穂は八つ当たりだと思いつつ、そう叫んで自分の部屋に飛び込んだ。



しばらくして……コン、とドアが叩かれる。

部屋に閉じこもり、フテ寝したって状況は変わらない。すべて、志穂の一方的な思いなのだから。受けとめてくれない巽が悪いんじゃない。
 

(わたしって……バカだ)


一緒に暮らし始めたら、トクベツな関係になるチャンスはグンと増える。そんなふうに舞い上がっていたのは志穂のほうだけ……。

巽にとっては迷惑な存在なのだと、認めたくなかっただけだった。


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