純愛☆フライング―番外編―
その笑顔を見た瞬間、志穂は胸がドキドキする。

巽は甘めのルックスと人当たりがいいから、やたらモテるのだ。それに“パティシエ”という人気の職業もプラス要素になっていた。

 
(たっちゃんは覚えてないよね? そんな……ケーキバイキングのお客さんなんて、女の子ばっかりなんだもの)


レストランの客と顔を合わせる機会は少ないという。

でも、ケーキバイキングは別だ。ストロベリー・カルディナールはウィーンのお菓子で、巽の得意なスイーツのひとつ。それを実演し、切り分けも巽がする。

志穂が親友の優実と一緒に行ったときも、巽は女の子に囲まれてキャーキャー言われていた。

ケーキバイキングのお客は、ほとんどが女性のグループ。バイキングに来るほどスイーツ好きな男性は滅多にいないし、カップルだと……彼氏が一緒だと思い切り食べられない、という女性側の理由もあった。

志穂は巽が『すみません』と言うことを期待して、上目遣いで様子を窺うが……。


「ああ! 覚えてますよ。いつもふたりで来られてますよね? 先日はちょうどカルディナールが終わってしまって……。次は多めに作らせていただきますので、ぜひ」


異様なくらい愛想良く巽は答えた。 そのままの勢いでグルンと抽選器を回すと、


「あっ! おめでとうございまーす」


コロン、と赤い玉が転がり出て、当たりを知らせる洋鈴の音色が吹き抜けの会場に響き渡った。


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