さくら一粒
まるで、ひとつなぎの映画を観ているようだった。
夏も終わり日差しも和らいで過ごしやすくなった季節の事。
風が少し冷たくなってきたけど、まだ寒いと感じる事はなかった。
何をする訳でもない、大きな窓が新しい空気を取り込む様をぼんやりと眺めているだけ。
さわやかに吹く風が部屋の空気を揺らし、カーテンを舞わせた。
まだ夏の名残が音を奏でていることに気が付いて私はゆっくりと重たい腰をあげたのだ。
「風鈴、片付けなきゃ。」
網戸を開けてベランダに下りる事無く手を伸ばして風鈴を取り入れた。
部屋の中で音を奏でていても、何だか外に居た時より弱々しく思える。
その様にどこか切なくて苦笑いをしてみせた。
ふと蘇った感情に心が揺れたからだろう、これも彼との思い出。
私は窓辺に立ったまま部屋の中を見渡した。
この一人暮らしの部屋、至る所に彼の面影が潜んでいるのだ。