さくら一粒
例えば窓を開ける動作1つにしても思い出される記憶は後を絶たない。

風鈴を持ったまま部屋の真ん中で佇んでいるけどもう涙は流れなかった。

とてつもない喪失感はたった1つの感情しか出さない。

自分ではどうしようもない現実に打ちひしがれた、しかし私はもうそれを乗り越えていたのだ。

今はもう寂しいだけで泣きたくなるほど辛い訳ではない。

風鈴を軽く撫でて机の上に静かに寝かすように置くと、コトンという曇った音が聞こえた。

ベッドの横に座り体を預けて両手を大きく伸ばす。

布団があたたかい。

顔を横に寝かせ、伸ばしたままの右腕に頭を乗せた。

左手は布団の感触を確かめるように円を描いて動いている。

前は息もかかりそうなくらい、近くに彼がいた。

同じように頭を寝かせ、手を繋ぎ微笑みかけてくれた姿はもういない。

強い風が舞い込んでカーテンが大きく風に舞う。

ふと視線を上げると、いつになく鮮やかな青い空が広がり白い雲がよく映えていた。

今日はいい天気だ。

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