恋愛の条件
「意味がわかんねぇ……忘れるってどういうことだよ?」

「私に言わせないでよ」

修一が怪訝そうな顔で奈央の手を引く。

「俺はっ……」

「それに修の口からも聞きたくないの。三年前と同じ思いはしたくないから」

「奈央、違う!」

「いいから、言わなくても。もうみじめな思いしたくないし、三年前みたいに思いっきり泣く体力もないのよ」

奈央は修一の手を振りほどき、彼を真っ直ぐに見つめた。

三年前のことを持ち出せば、修一は何も言えなくなるのはわかっていた。

奈央は自分で地雷を踏む。これ以上はダメだ、ここで手を引くのだ、と自分に言い聞かせるように。

「女の意地よ……」

そう言って奈央は寂しそうに笑い、修一のそばからそっと離れた。

修一は、拒絶する奈央の背中をじっと見つめながら、何も言えなかった。

自ら手放した温もりをかき消すように、手をぎゅっと握り、奈央は修一の部屋を後にした。


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