恋愛の条件
奈央が涙を拭きながらネイルを直していると、修一がオフィスへ戻って来た。

「何?まだネイル直してんの?」


(ヤダ、何で戻ってくんのよ……)


「女って大変だよな?」


(ダメ…今口開いたら泣いちゃう)


「かせよ?」

「ちょっ……」

「俺、結構器用なんだぜ?」

修一は隣の席に座ったかと思うと、奈央の手をそっと取る。

手を引こうとする奈央の指に自分の指を絡めながらチップをそっとつけた。

「///っ///」

「手動かすなよ、ズレるだろ?」

修一はチップをつけながらわざと指を滑らせては絡め、奈央の反応を誘った。

肩がピクンと揺れるが、奈央は動揺を見せまいと視線を落とした。

「何?今度は口きけなくなったのかよ?」


(ヤメテ……もうそんな風に触るのは……)


修一は変わらず余裕の表情を浮かべながら奈央の指の一本一本に自分の指を絡める。

「アッ……」

「あれ?ちゃんと声出るじゃん?」

「/////」

「なぁ、知ってた?指にも性感帯があるの?」

修一は奈央の指にそっと唇を這わせる。

「……っ……」

「チュプ……」

その唇は優しく奈央の指に触れ、それは愛しいものを愛撫するように繊細にキスを落とした。


(何で……何でそんな風に触れるの?

こんなの、ズルイ……)


指に全神経が集中する。

このまま流されてはダメだ、振り回されたたまた同じだ、と奈央は必死で自分に言い聞かせた。

こんな風に触れて、気がおかしくなるくらい感じさせるくせにこの男の気持ちは自分にはない。

そう思っていても、奈央は嫌というほど修一を感じてしまう。


(ねぇ、修、あなたの心はどこにあるの?
辛いよ…もう心が苦しくて、ムリだよ……
 
 心と身体の均衡が…取れない……)


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