恋愛の条件
(このまま、このままむちゃくちゃにして忘れさせて……)


耳元で吐息交じりに名前を呼ぶ声も

力強く押さえつける腕も

捉えて離さない瞳も

有無を言わさない唇も

身体中に刻まれた記憶の全てを忘れてしまいたい。


片桐から与えられる快感を繋ぎとめようと奈央は彼の背中に爪を立てる。


(もっと……もっと……淫れさせて……)


奈央が腰を浮かせて片桐を求めようとした時、彼の動きがピクンととまった。

「----片桐さん?」

吐息混じりに問えば片桐の瞳が困惑に揺れている。

「どうしたの?」

「どうしたって……自分の顔を鏡で見てみたらどうだ?」

片桐は溜息を零しながら奈央の身体からそっと離れた。

「----え?」

頬の横の濡れたシーツの冷たさに、それが自分の涙と気づく。

「な、何で、何で涙なんか……」

自分でも気づかないうちに奈央の瞳からは涙が溢れていた。


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