恋愛の条件
ホテルを出ると、また雨が降り出していた。

春の天気は降ったり止んだり忙しい。

それはまるで奈央の心を現しているようだった。

片桐は、必ず奈央をタクシーに乗せるようコンシエルジェに伝えてあったらしく、タクシーに乗るまで見送られた。

こんな所まで彼の優しさを感じ、それが一層奈央の心を締め付けた。

そんな価値なんてないのに……


タクシーの中で奈央は行き交う車のライトをぼんやりと眺めた。

この広い都市に数えきれないほどの男がいるのにどうして自分は修一がいいのだろうか。

手に入らないとわかっていて、どうして心は修一を求めるのだろう。

片桐に触れられ、甘い言葉を囁かれ、これが修一だったら、と思った。

忘れたいと思いながら、身体の隅々まで修一に埋め尽くされていた。


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