恋愛の条件
もごもご独り言を言っていると、修一の両手が奈央の腰にまわる。

「お前さぁ、もっと器用に生きろよ?」

「どういう意味?」

「両方手に入れろよ?」

「えっ?」

「どっちか、じゃなくて、両方手に入れることを考えろよ?」

修一が奈央の顔を下から覗き込む。

その瞳はすごく優しく、冗談でそんなことを軽く言っているわけではないとわかる。

「両方……?」

「そっ!俺もキャリアも両方手に入れて、勝ち組になるのも悪くねぇだろ?」


(両方手に入れる? そんなこと、考えたこともなかったわ)


「決断はお前に任せるけど、少し考えてみろ?」

「…………」

奈央を解放し、エレベーターに乗り込もうとした修一をもう一度引き留めた。

「ねぇ、でも……」

「何?」

「もし、この話を引き受けても、結婚してくれるの?」

そう、これは大事なこと。

ちゃんと聞いておかないと。

「はぁ?お前何言ってんの?」

「だって……」

修一を見上げる瞳には涙が溜まっている。

「当たり前だろっ!?」

「ほんと?よかったぁ……」

奈央は安堵し、その顔にはやっと笑顔が戻った。

が、修一は何やら困ったような、焦れた表情をしている。


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