恋愛の条件
行きつけの居酒屋で、山下はどこか腑に落ちない気分で、目の前に座るこの横柄な後輩と乾杯をする。
すき腹にジョッキビールを一気に飲み干しても顔色ひとつ変えず、次のジョッキを頼めと先輩であるはずの自分を顎で使うこの生意気な男の名は、黒沢修一。
できれば、関わるのはなるべく避けたいところだが、何故か今夜はこの男に無理矢理居酒屋へと引きずられる羽目になった。
「それにしても驚いたな……」
「何が?あ~生はうんめぇ♪」
「いや、まさかお前と奈央が結婚するなんて……」
「悪りぃかよ?」
「別に悪かないけど、一応俺は奈央の元彼だぞ?ついでにお前の二つ先輩!」
「それが何?二つじゃなくて、二期だろ?同じ歳じゃん?」
コイツは日本の縦社会をなめているのか、と山下は怒りを抑えながらテーブルの下で密かに拳を握る。
「それでも、わざわざ報告して祝えって無いだろ?」
「何で?」
「普通、この状況の場合お前がおごる方だろ?」
「ぷっ……わっけわかんねぇ」
修一は本当に山下の意図していることがわからないんだろう、首をかしげて笑っている。
「お前、俺から奈央奪っておいて……」
「別に奪ってねぇだろ?俺が戻って来たときお前らもうすでに別れてたじゃん?」
「お前のせいで別れたようなもんだよっ!」
山下は薄い笑いを浮かべるこの生意気な後輩を睨みつけた。
「はぁ?人のせいにすんなよっ?」
「お前のせいだよっ……」
「ってか、お前の方から奈央のこと振ったんだろ?自分から手放しておいてよく言うぜ」
「性がないだろ?奈央の心は一度だって俺の方に向いてくれたことなんてなかったんだから」
「悪かったなぁ、あいつ俺のことずっと忘れられなかったらしいから♪」
「(コノヤロ……)」
あぁ、コイツを殴りたい、と再度こぶしを握るも、自分より一回りガタイがでかく喧嘩が強い後輩を前に、その戦意は失われる。
「お前に俺の気持ちがわかるか……」
山下はドンッとジョッキをテーブルに置き呟く。