恋愛の条件
修一は二週間程前のことを思い起こす。

何を言っても奈央には通じず、修一を拒否し続ける。

後で知ったことだが、奈央は修一に彼女がいると思いこんでいた。

取引を成功させ、ニューヨークの出張から帰ってきてから奈央にきちんと告白するつもりが、五十嵐の余計な一言で全ての計画が崩れたのだ。

「それより、片桐キャップは?もう大丈夫なのか?」

「あぁ……」

修一は聞かれたくなかったことを突っ込まれ、不機嫌丸出しに言葉を切る。

これは、反撃チャンスか、と山下の舌は鳴るが、あえて足を横に組み、修一から距離を取る。

「お前はわかりやすいヤツだなぁ。何、きちんと話してないわけ?」

「お前、なんか嬉しそうだな?」

修一がジロッと山下を睨む。

「い、いや、ちゃんと挨拶していけって言ってんだよ!」

「わかってるって。あの人はすげぇよ。器が違いすぎる。尊敬している分、キツかったな」

「何が?あっ……」

山下は続く言葉をごくりと飲み込み、その視線は修一の背後に立っている人物に注がれている。

ただでさえ修一の前で気弱な山下の瞳に一気に動揺が走る。

「???」

山下の反応に、怪訝そうに後ろを振り返れば、口角を上げて皮肉な笑いを浮かべる片桐が立っていた。

「お前がそう思ってくれていたとは嬉しいなぁ」

山下と修一は、その声に熱気の篭る居酒屋の温度が5度、いや10度下がったように感じたのは言うまでもない。


< 318 / 385 >

この作品をシェア

pagetop