恋愛の条件
「お前のその押しの弱いところがダメなんだろうがっ!俺だったら会いたいと思ったら電話出なくても今から行くけどな?」

「俺はお前みたいに自己中じゃないのっ!相手のことをきちんと考えているんだよ!明日またこの自己中なチーフにコキ使われるみたいだし」

「プッ……佐野さんに愛想つかされるのも時間の問題だな?」

からかいめいた声で修一が笑う。

「お前だけには言われたくないっ!奈央も可哀想に。今頃熟睡中でもこのエロジャイアンが帰って来たら起こされるんだろうなぁ」

「バ~カ♪あいつさぁ、俺が遅くなるから先に寝てろって言っても何か理由つけて起きて待ってんだよなぁ」

そう嬉しそうに言う修一の目尻が下がっている。

こんな顔のジャイアンを見るのは初めてだ。

鏡でその顔を見せてやりたいと思うが、その幸せそうな顔に山下は脱力した。

「あ~ハイハイ。もういいって」

「さて、俺は奈央の待つ部屋へと帰るかな?あっ、すみません、これでお勘定おねがいします。」

修一は財布からカードを取り出し、店員に渡した。

それを手にした店員が不可思議な顔をしている。

「あの、先ほど同席されていた方からお勘定の方はすでにいただいておりますが?もし、多すぎる場合はタクシーを呼ぶようにと言われていますので今お呼びしましたが?」

「えっ、片桐さんが?」

「あの人って本当にどこまでも……」

修一はカード受取り、力が抜けたように笑った。

「最後の最後まで恰好いいんだもんな」

「あぁ、そうだな……お前は絶対にあの人には敵わないよ(笑)」

「るっせぇ……」

修一は山下に別れを告げ、タクシーに乗り込むと奈央が待つマンションへと向かった。


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