恋愛の条件
「わ、私のことより、広瀬さん、ちゃんと仲直りしなきゃ。黒沢さんが広瀬さんのことちゃんと考えているのはわかっているんですよね?」

佐野は、注意を自分から逸らすのに必死だ。

「すぐに会いに行ける距離じゃないんですから、こじれないうちに……」

「わかっているけど、今回は私からは絶対に謝らないものっ」

相変わらずビールをチビチビ飲む奈央の姿は、普段のキャリアウーマンの様子なんて伺えない。

佐野は、奈央のそのギャップがかわいいと思うが、今日の彼女は今にも泣きそうな顔をしている。

「広瀬さん、私も一時期山下さんに意地張って素直になれない時があったから解りますが、ちゃんと話した方がいいですよ」

「イヤよっ!修が謝るまで絶対に私から口きかないもの」

「ベッドに押し倒されれば、すぐにごめんなさいって言うくせに」

バカバカしいと沙希が二人の会話に口を挟む。

「///そ、そんなことないものっ!今度は絶対に……」

「修一に何が不満なわけ?」

「だって……」

するどい言葉を被せてくる沙希に奈央は何も言えなくなる。

修一に不満?

改めてそう聞かれると、はっきりと何が不満か言えない。

不満というより、それは多分、「不安」の方に近い。

時々その不安に押し潰されそうになる-----

そんな時に起こした些細な喧嘩が、こじれてしまったのだ。



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