恋結び【壱】
お、男の子!?
あたしは一歩、後ろへ足を戻す。
するとパキッと足元で音がした。
木の枝を踏んだらしい。
ヤバい。
バレちゃうかな!?
ん…?バレる?
いや、バレるとかじゃなくて、この人が寝てるのが悪くて…。
「誰」
「!?」
あたしはハッとして男の子に視線を移した。
男の子は寝起きのように目を半開きにしてあたしを見た。
ど、どうしよう…。
「ご、ごめんなさい!あたしは、その…怪しい者じゃないっていうか…怪しいけど怪しくないっていうか…。あれ?あたしって怪しい!?…ッハ!!いや、違っ…その…」
あたしはどうしようもなく、混乱していて、うまく話せない。
男の子は大あくびをしていて、目をこすりながら、確かに笑っていた。
は、恥ずかしい。
あたしは一度、深呼吸をしてから抗議した。
「……気持ち良く寝ていたのに、ごめんなさい。…お邪魔っ…しました…」
あたしは進行方向を変えて、歩き出した。
「“新しい家”に帰るか」と思い、あたしは足を前に進めた。
が。
「待って」
ドックン。
歩くあたしは男の子に呼び止められた。
あたしは立ち止まってしまった。
ううん。
違う。
立ち止まってしまったというより、身体が男の子の声に従ったようだった。
なんだろう。
この気持ち。
さっきと、同じ。
身体の奥底から熱が引き出されて、あたしの鼓動を打ち付ける。
「ねぇ」
ドックン。
また跳ねる、鼓動。
その鼓動の強さにあたしは息の仕方を忘れてしまう。
透き通るような綺麗な声。
そんな綺麗な声があたしの事を呼んでるの?
あたしは、振り向く。
すると男の子は踊り場のところを降りていて、あたしの目の前にいた。
男の子は目を細めて柔らかく笑う。
「やっと気付いてくれた」
「…」
あたしはそのお日さまみたいな男の子の笑顔に見とれて、出る言葉も出なかった。
「ここになんのよう?」
男の子はニコニコ笑い、あたしに問いかける。
「…ただ、通り掛かっただけで」
「そっか」
男の子はまだ笑っていた。
なんだろう。
この感覚。
あたし、おかしいよね。
すると――――
「勅使河原、遥」
「え…?」
男の子は少し微笑んだ顔で言った。
「俺の名前」
どうして?
どうして?
どうしてこんなに胸が熱くなるの?
おかしいよ…。
あたし…。