恋結び【壱】
あたしは遥の胸から起き上がり、真っ正面で遥を見た。
「だっ、だめだって!!」
「…どうして」
遥の漆黒の瞳がギロリとあたしを捕まえる。
まるで狼に狙われたリスのよう。
「…そっ…それは…」
あまりの恥ずかしさに顔を俯く。
すると、遥の大きく白くて綺麗な手がワンピースの中に入りあたしの太ももを撫でた。
「ひゃあっ!!!」
「スベスベだー」
「そ、そうじゃない!!!」
あたしは遥の手を乱暴に叩き、ワンピースの中から出した。
遥は相変わらずニコニコしていて反省も何もない。
「も…やめてよ……ばか」
あたしは俯き、ボソッと呟くと遥は優しくあたしの頬を両手で包み込むと呟いた。
「…そうやって、いつも俺にだけ赤い顔を見せていればいい」
「へ…?」
あたしと遥の距離は一気に近くなる。
「…そのくらい俺は君を欲しているんだよ、美月」
あたしは熱帯びた頬に涙を一粒流した。
よくわからないが嬉しかったから。
こんなに愛する人から自分を求められて。
自分の居場所、存在理由があるということが嬉しくてたまらなかったのだ。
だけど切なくて。
胸がキューっと締め付けられて苦しい。
なぜだかわからない。
嬉しいはずなのに、悲しくて辛くて、涙が溢れて止まらない。
「…美月?」
「…っ、お願い…」
頬を包む遥の両手に自分の両手を重ねた。
「…んっ…どこにも、行かないでね…っ、絶対に…離さないでねっ……」
涙で歪む視界の中であたしは遥を見ながらそう言った。
「…うん」
そう言ってまた重なる唇。
―――その時、遥はどんな顔をしていたのかな。
歪んでよく見えない遥の表情。
あたしには見えない遥の表情。
あたしは気付いていなかった。
遥はこの時、笑ってなんかいなかった。
悲しみに満ちた瞳をして、悔しそうに歯を食い縛り―――
―――涙を流していたなんて。