恋結び【壱】
「…どうして」
「ん?」
「どうしてあたしなんかに名前、教えるの?」
「う~ん」
あたしは聞いてみた。
なんか、可愛くない態度。
だから“男”にどんどん捨てられていくんだ。
どんなに可愛くなっても、性格が可愛くなくて…。
あたしはハッとして、溜め息を吐く。
…また、過去なんか思い出しちゃって…。
この時、男の子が哀しい顔をしたなんて、あたしはしらない。
だけど、顔を上げたとき、目が合うと、男の子は満面の笑みをあたしにくれた。
「君、名前は?」
「あ、あたし?」
「うん。そー」
男の子は無邪気に笑う。
あたしは少し緊張しながらも、男の子の目をしっかり見て口を開いた。
「成瀬美月」
「美月ちゃんね」
「え?」
男の子はまたニコニコ笑う。
男の子は笑顔と一緒に「文句ある?」などと訴え、あたしは顔を伏せる。
“美月ちゃん”
男の子の中では初めての“ちゃん”付け。
その新鮮さにあたしは胸を踊らせる。
“美月ちゃん”かぁ。
何年ぶりだろ。
ちゃん付けなんて。
照れるなぁ。
それにしても…。
「何で、和服なの?」
あたしはニコニコ笑う“彼”に聞いてみた。
だけど、“彼”は何も言わずに笑うのをやめて、探るような目であたしを見る。
「何…?」
「…」
“彼”は何も言わない。
むしろ、不機嫌そうに顔をしかめた。
な、なんだっ!?
あたしの顔に何か付いてるのかな!?
う~ん…。
「……って」
「え?」
“彼”は少しはみかみながら言った。
「…“遥”って、言って」
「え…」
突然の“彼”の言葉。
あたしはその現状についていけなかった。
何…それ。
これじゃあまるで…。
『“翔太”でいいよ』
アイツと同じ。
だけど…。
「…遥」
だけどなんでだろう。
今日初めて逢ったのに。
この人とあたしが昔、逢ったりとかもしてないのに。
…あたしは貴方を期待してしまう。
信じてしまう。
「良くできました」
緩く微笑んだ男の子。
そして、あたしの頭をソッと撫でる。
あたしは何もしないでただただじっと、俯いていた。
引っ越し先は海を一望できる小さな町。
“婚約者”のいるあたしの前に現した、神社にいた和服の青年。
これがあたしと“遥”の出逢いだった。