恋結び【壱】
優しい笑顔にあたしは息を飲んだ。
暗闇の世界からまるで光の世界に来たような、そんな感覚に。
「…会いたい、会いたいよ…」
「明日にでも、会いに行ってきなさい」
あたしは優しい達大さんの言葉に甘え、明日遥に会いに行く事を決意した。
きっと大丈夫。
遥はいる。
また、遥を感じられる。
気持ちが軽くなり、顔が綻んだ。
その時―――
「許さねぇぞ。そんな事」
「え…」
「…翔太」
あたしの目の前にに翔太くんは立ちはだかった。
翔太くんは不機嫌さ最上のようなくらい、恐ろしい顔をしていた。
「…翔太」
達大さんは立ち上がり、重たい口を開いた。
「…明日、美月ちゃんを遥くんのところに行かせてやれ」
「嫌だね」
「翔太…!!」
「ふざけんなよ!!!」
翔太くんの怒鳴り声が部屋中、いや、家中に響き渡り、あたしはただ黙ることしか出来なかった。
翔太くんはまた口を開き、続いた。
「父さんは知ってたんだろ!?俺が知る前から美月とあの男が会っていたり、愛し合ってた事を!!」
「ああ」
「なら…どうして…!!!」
少し間が空いた時。
達大さんは低い声で言った。
「言ったところでどうする」
「…!?」
「お前はきっと、美月ちゃんの本当の恋に災いをもたらすだけだ」
あたしが口出しするような環境じゃなかった。
あたしは翔太くんの顔色を伺い立ち上がった。
「あ―――」
「俺と美月は婚約者じゃねぇのかよ」
「っ…」
口を開いたあたしは静かに口を閉ざし、翔太くんの目を見た。
達大さんはただ翔太くんを見つめていた。
「美月の婚約者は俺だ。遥じゃないんだよ……!!!」
「…確かに、そうだ。だけど」
達大さんは翔太くんを睨んでいた。
あたしはただ息を飲み、硬直するだけ。
「婚約者は決めつけられた恋愛だ。自分の意志ではない」
「っ…」
あたしの胸は高鳴った。
二人のやり取りに不安がよぎって。
すると達大さんはあたしの方を向き微笑んだ。
「美月ちゃん、お風呂入ってきなさい」
「で、でも…」
「大丈夫」
あたしは頷き達大さんの部屋を後にした。