恋結び【壱】



あたしは湯に浸かり窓からおぼろ月を見る。
そしてふと、思い出す。





『俺と美月は婚約者じゃねぇのかよ』


『婚約者は決めつけられた恋愛だ。自分の意志ではない』






二人の言い争いの一部分があたしの頭の中で流れ出す。
あたしは濡れた手で耳を押さえ、首を左右に振った。

あたしは、とんでもないことをしてしまった。
婚約者がいると言うのにも関わらず、また別に想い人を作ってしまった事に。


「ばかだ…、あたし…」


“婚約者”という偉大な関係を持った翔太くんとあたし。
その関係をあたしはぶち破ってしまった。

翔太くんには本当に申し訳ないとんでもないと思ってる。

でも、あたしはこの“婚約者”という関係を心から望んでる訳ではない。
むしろ初めから。
翔太くんと会った時から。



“婚約者”という関係の中では本当の愛など生まれない。
この人とでは、未来が見えない。


この人ではダメなんだ、と。



「…」


窓から入る、冬の冷たい風が肌を刺激する。
あたしは顎に付くぐらいお湯に浸かった。


「髪…洗お…」


あたしは湯から出て、冷たい空気へと身を乗り出す。
ひんやりと身体が一瞬で冷たくなって行く。
あたしは素早く空いた窓を閉めようと窓に手を添える。
半分程度窓を閉めてみるが少し開けた状態でその手は止まった。
指先だけが冷たく、何かを求めていた。



「遥…」



今何をしているのだろうか。
これで何日会っていないだろうか。

カチャン。

あたしは完全に窓を閉め、お風呂の縁に腰かけた。
お尻が少し冷たくなった。








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