恋結び【壱】



心も身体も冷たくなる。
心も身体も遥を求めている。

今は理由なんていらないから、ただ単純に抱き締めて欲しかった。


「…っ」


どうして翔太くんはあたしの婚約者なのだろう。
どうしてあたしは翔太くんの婚約者なのだろう。


どうしてあたしは遥の婚約者になれないの?

遥と、婚約者になりたかったのに…―――



「…っく…」






運命は意地悪だ。






瞼から涙が溢れた。
頬を流れ顎から膝に落ちていく。


痛い。
胸が裂けそうなくらい痛くて苦しい。



「会いたいよ…会いたいよ…」


あたしの声はお風呂場に虚しく響くだけ。
会いたいと夢を願うが、現実はそうはいかない。
会わせてもらえない。




『明日にでも、会いに行ってきなさい』




達大さんはあたしをなぐさめ、希望と優しさをくれた。
だけど、本当は会えない。
会いに行こうとするだけで翔太くんに見つかってしまう。

あたしはどうしたらいいの?
誰を信じればいいの?
あたしには味方がいないの?


先が見えない。


一人が寂しい。
あたしは何も飾らない身体を抱き締めた。
身体は湯冷めしていて冷たく冷えきっていた。


一人じゃ抱え込めない。
“大丈夫”って思えるような温もりが、欲しい。
“大丈夫だよ”って言われているような確実な愛が欲しい。


遥、遥、遥。
遥、遥、遥。




『…望むところ』





「っ」




遥はそう、翔太くんに言っていた。
明らかに挑発しているようで、だけどいつもの遥のように愉しそうで。


だから不安になる。


遥は翔太くんなんか無視してヘラヘラこの大久保家に来て何かされちゃうのかな、なんて思う。
遥はめちゃくちゃだから自分のペースで物事を進めて行く。


『その格好、癒されますね』


変態で。


『…君をもっと、色んな方法で感じてみたい…』


えっちで。


『なに、ニヤけちゃってんの』

意地悪でかっこいい。



目を瞑れば、遥の声が聞こえる。

優しい声、甘い声。
大好きな匂いも香って。


遥は傍にいるって思えてきて元気が生まれる。

あたしは立ち上がり涙でぐしゃぐしゃになった頬を叩いた。






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