恋結び【壱】
第二話 水城神社
翌日。
あたしは山になっている荷物たちを、引っ越し業者のトラックに運んでもらった重い荷物に、収納する。
「めんどくさい」
あたしは荷物の山、きっと服だと思う、柔らかい荷物にダイブする。
「こらこら、美月」
「…あ、翔太くん」
あたしは声のする方を寝ながらチラリと見てみると、翔太くんがいた。
…“美月”。
翔太くんが微笑みながらあたしの名前を呼ぶ。
相変わらず、誰もが見とれるほどの、かっこよさ。
男の子らしい、って言うより、綺麗に筋肉がついているようだった。
だけど…。
馴れ馴れし。
あたし、認めてないんだからね!?
アンタのこと。
“翔太くん”なんて本当は呼びたくなんかないんだし。
アンタなんかに名前で呼んでもらいたくなんて―――
『美月ちゃん』
「――っ」
ふと、耳に響いた……、“彼”の声。
その、透き通るような綺麗な声が、あたしの薄い鼓膜を震わせる。
あたしは敏感に身体に神経を走らせ、起き上がる。
“彼”とは。
初めて逢ったのに。
ただ、初めて声を聞いただけで。
どんな感情だって、持っていない。
それなのに…どうして。
あたしの頭は“彼”でいっぱいになる。
あたしは虚ろな目で、障子の隙間から見える庭を遠い目で見た。
「……遥…」
たっぷりの吐息に紛れた人の名前。
なぜだか、その名はあたしの心をほぐしてくれるような、そんな風に感じる。
「…何?どうしたの?」
翔太くんがあたしの顔を除き込む。
あたしは翔太くんの目を見てからすぐにそらし、顔を俯く。
顔が火照る。
あたしを除き込む翔太くんのせいじゃない。
そう、あたしの脳内を支配した“遥”のせい。
身体の芯から熱が引き出され、その熱に耐えきれなくなったあたしの脳が、何も色を付けない“純白”に染まる。
あたしは口を、左手の甲で隠して、その状況を翔太くんにバレないように隠す。
そんなあたしを見て呆れたのか、翔太くんは深く溜め息をつき、あたしの頭をソッと撫でた。
「…荷物、整理しよっか」
そう言って“彼”は荷物へ手を伸ばした。
胸が苦しい。
肌が痛いくらいに熱い。
頭が混乱すぐにかる。
これって…。
ま、いっか。
あたしは翔太くんに続いて、荷物を整理していった。