恋結び【壱】
―――…
あれから片付けていったけど…。
「ちがうっ!それはここ!」
「もっと、丁寧に」
「こらっ、さぼらないの!!」
って…。
“婚約者”が言うことかよ、おい!!
…最初は優しくて、かっこいいなぁ、なんてほんのちょっと思ったのに。
あぁあ、“愛想尽きた”ってかんじですよ!!
まぁ、なんやかんやで無事終わり、今は一息ついてるとこ。
和菓子、お抹茶を貰い、優雅に過ごしています。
「はぁ…、美味しい」
廊下に出て、縁側に腰を掛け、外に足をぶらっと出し、枯山水を眺める。
枯山水を見ながら、和菓子とお抹茶…。
絶対、普通の人なら味わえない贅沢だよね!
あたしってなんてラッキーなんだろう。
「美月?」
「んえっ?」
翔太くんが、あたしの顔を除き込んだ。
その反応を見て、翔太くんは満足そうに、目を細め、笑った。
あたし…、完璧自分の世界に入ってたよ…。
情けない。
翔太くんはあたしの手元にある、和紙に包んである和菓子を取った。
「あ…」
「…食べないなら、貰っちゃうよ?」
意地悪そうに微笑みながら言った。
トクン…
……あれ?
今、“トクン”って鳴った?
なんでだろう。
目尻が熱くなる。
涙が出るのかな?
あたしは一度まばたきをし、目を細めている、翔太くんの目をじっと見つめる。
翔太くんの顔には笑みは消え、何やら真剣な眼差しへと一転する。
そんな“彼”は。
細めているけどしっかり見える、漆黒に輝く瞳。
その中に、光が鋭く映る。
目の上に被さる、長く、綺麗なまつ毛。
あたしはその瞳に、身を捕らわれながら、微かに唇を震わせた。
「…翔太…くん…?」
あたしの頬に、翔太くんのゴツゴツした手が覆う。
細くて長くて、その指先で器用に、あたしの頬を刺激して。
何より、ヒヤッとする冷たい手に、ゾクゾクと背筋が寒くなる。
「…いい?」
「…!!」
“いい?”
あたしはその言葉の意味がすぐにわかった。
この状況で、わからないやつがバカだと言ってもいいぐらいに、翔太くんは甘く囁く。
近い翔太くんの、唇。
今にも閉じそうな、瞳。
その近さで微かにあたしに被さる翔太くんの、前髪。
太陽があたしたちを見下ろす。
春の風が桜を纏い、空中を自由に飛び回る。
あたしはそれらの眩しさに目を伏せた。