恋結び【壱】
遥の座る、お賽銭箱の奥、舞の舞台に視線を運ぶ。
全く古びてもいない木の柱が、艶々と光り、あたしの目を釘つけにする。
そして、ピタッ、と。
息を殺して見つめる先は、遥。
立ち止まるあたしに、遥は目を細め、口を綻ばせる。
「どうかしたの?」
「……いや、別に」
あたしは無表情のまま、遥の言葉をながす。
華奢な身体を黒い和服が綺麗に包み、日焼けを知らない真っ白な肌が、やけに眩しい。
ジッ、と、あたしは見ることしかできなくて。
口を少し開いたところで、動作は停止する。
すると、遥が口に不適な笑みを作り、片足を立て、少し寄り掛かるように片手で身体を支える状態になった。
「どうか、した?」
「っ」
遥は少し首を傾げて言った。
あたしはその言葉で、ふと、我に返り、「何でもない」と反論してみた。
目を細めて、妖しい笑みを浮かべている遥。
危ない危ない、と。
あたしは自分に言い聞かせ、遥を見つめた。
「そんなところに突っ立ってないで、ココ、座りなさい」
自分の左隣のところをポンポン叩く、遥。
その音が何とも今の情景に心地のよいぐらいに合う。
春の風が優しく吹き、遥の黒い髪が揺れる。
桜の樹が波打つ。
ヒラヒラと桜の花びらが踊る。
「……は、い…」
あたしの声は震えていた。
それは、この、桜が散り、風に乗って愉快に舞う景色に、愉しそうに笑う、遥、が、似合いすぎたから。
お賽銭箱を抜け、遥の片足がぶらつく目の前にあたしは立つ。
遠くから見ていたからだけれど、近くで見たら結構な高さの舞い舞台。
見上げるように遥を見ると、遥は、また、妖しげな笑みを浮かばせる。
「登れませんか?」
「ち、違う!」
あたしは遥を睨み、先ほどポンポン叩いていた場所の前へと立つ。
あたしは一端、両手をつき、一呼吸してから、一気に身を上に乗り出した。
膝をつき、上に上がり、遥の隣に腰掛ける。
「どう?」
あたしは大袈裟に胸を張り、満足な顔を作った。
「お見事」
「あたしをナメるなよ」
「舐めてみたいですね」
「………は?」
あたしの隣の変態、じゃなくて、遥は顎に手をあて、あたしをまじまじ見ていた。