恋結び【壱】



“遥”と“あたし”はあたしの事が見えていないのか楽しそうに会話を続けていた。
“あたし”の胸に光るのはシルバーチェーンにハートのダイヤ。
遥からクリスマスプレゼントで貰った大事な宝物。
あたしも自分の胸元にあるシルバーチェーンのネックレスに手を当てる。
当然のように在るネックレスに安堵した。

だって、もしかしたら夢の中だったのかもしれないって、思ったから。

“遥”はというと左手首に同じくシルバーチェーンのブレスレット。
クリスマスにあたしが遥にあげたプレゼントだ。
あたしと気が合うのか、いや、好みが偶然同じなのか、シルバーチェーン同士だった。


「――…」


思わず微笑む。
同士とか、そんなんではなく。
ただ、単に。

今あたしが見てる“あたし”と“遥”が楽しそうに話している光景が幸せそうだったから。

別にこの光景があたしの記憶上の物じゃなくて、ただ創り物だとしても。


あたしは胸に手を当て、瞳を閉じた。


「…あたしは今、幸せなんだ」


また、意識は途切れる。
何かの衝撃があたしにぶつかり、目の前の光の世界が消え去った。










―――…





「んっ」


現実に戻ってきたあたしに眩しい光と寒気が襲う。
恐ろしい事に日にちが変わっていた。
だけどまだ下がらない熱。
頭もまだ痛く、暑いのか寒いのかわからない、とにかく危ない状況だと自分なりに把握した。


ひょいっと。


あたしは普通に立ち上がり、普通にあくびし、普通に歩き出した。
なぜかわからない、頭は割れるほど痛いのに、気持ちが軽くなって、足が勝手に動いてしまう。
熱冷ましシートを額に張り付け、フリース素材のパジャマの上にまたフリースを着て玄関の前に突っ立ってた。

下駄箱の隣にある長細い鏡に自分の顔が写った。
少し火照っていて、目がトロンとしていて髪が四方八方に跳ねていて、額には熱冷ましシート。
あたしは少し笑い、靴下を履き、動きやすいヒールのない靴を履いた。


「……あたしはなんて、馬鹿なんだろう…」


そう言いつつも、家を出たあたし。
熱があるが故に外出。
とんだワガママお姫様だ。

頭が痛いのに走り出した。







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