恋結び【壱】


「…ばかみたい」、そうあたしは呟いたのだが、内心、そう思っている気持ちは少ない。
むしろ、不気味な程に、胸が高鳴って、ドキドキして、今にも顔が赤くなりそうになる。
あたしはそれがバレないように、顔を伏せた。

少しの間だけ、沈黙が二人を襲う。
風に吹かれ、ざわめく木々の神秘的な音だけが虚しく響く。

すると、遥は沈黙を破り、空を見上げながら言った。

「君と逢うのは、初めて、だよね?」

「…え」

「初めてじゃないといいたいのかね?君は」と、思うが、できるだけ変な想像はしたくないから、強制的に思うことを止める。

「俺は君のことを、まだよく知らない」

「あたしもですけど」

遥の言葉に鋭くつつくと、「ひどいねー」なんて、ヘラヘラ笑っている。
だけどその目は何か、切なそうで。
笑っているけど、笑ってない、そんな感じ。

笑いを止めてそっと、空を見上げる、遥。
空を見つめるその目は、どこか遠くて。
胸を中心に、鳥肌が立ってくるほどに、美しい。

あ、そうだ、と、あたしは思い、口を開いた。

「遥ってなんで和服なの?」

「前もそんなようなこと、言ってたよね」

遥は首を傾げて微笑んだ。

「和服が好きだから?」

「へ、へぇ…」

「好きならしょうがない」と、あたしは身を引く。
好きなら変につつくといけないからあえて聞き流す。
それにしても、今時、和服好きとは珍しい。
むしろ、“和服を着る”ということが珍しいだろう。
街中を和服姿で歩いたら、別の意味で目立つに違いない。

まぁ、それはさておき…。

あたしは次の質問へと移った。




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