恋結び【壱】
水城神社に行く途中の道は人や車が全く通らない、小道だ。
周りには道を木々がトンネルのように覆う。
少しだけ見える空が眩しい。
重い灰色がかかった、白い絵の具のようにも見える。
ここを歩いたのも今日で何回になるのだろう。
百回は越えてるだろうか、いや、それ以上か。
一日に二回通っていたこともあったしね。
ふと、立ち止まり振り返った。
ここもまた、いつか思い出になる。
そう思い目に焼き付けた。
なんだか、今日は頻繁に思い出になることしか考えられない気がしてしょうがない。
なんでかな?
まるであたしがこの世から消えてしまうみたいだ。
「クス…」
呆れて笑ってしまう。
もし今日消えてしまうのなら、もっと思い出を作ってしまおう。
あたしは、通ってきた道に笑いかけ前へと歩き出した。
木のトンネルを抜ければ、一つの道を挟んで石段はそこにある。
その道は車がよく通るから要注意だ。
左右の安全を確かめると、石段に足をかける。
この石段も、たくさん登った。
初めは石段が長く、足が疲れていた。
だけど今は違う。
もう慣れっこのように軽い足取りで登ることができる。
なんでだろう。
自然に……かな。
するとパッと、ある人物の顔が思い浮かんだ。
あ……、そうか。
「……ふ…」
口許が緩んだ。
頭に浮かんだ人物。
その人物がこの石段を登り、水城神社に導くきっかけとなっていたんだ。
その人に会いに行くために。
あたしは毎日、毎日。
“辛かった石段”も“ワクワクしてしまう石段”と変わっていったんだ。
あたしの勇気の源。
それはあの人そのものだ。
やがて、最後の一段。
心臓が速く脈打つ。
優しく置いた足に一気に体重をかけ、前に乗り出した。
頭上には真っ赤な鳥居。
足元から前に続く参道。
お賽銭箱に太い綱を垂らした大きな鐘。
そして大きな木造建築の建物。
それはこの水城神社の本体。
建物の木の色と作りに古風を感じ、それをいっそう引き立てるように踊り場で片足を折り曲げて柱にもたれ掛かる和服の青年。
その光景を見て笑みが溢れた。