恋結び【壱】
いつも遥はあたしが泣いたり、赤くなったり、笑ったりすると、優しく頭を撫でてくれた。
あたしが心細い時や、温もりを欲しているときそれを察して抱き締めてくれた。
そんな時はいつも優しく口付けをして、甘く熱い温もりをくれた。
でも。
でも……いつだって遥は「好き」だなんて言葉を口にしてはくれないんだ。
抱き締めたり、口付けをしてくれるのに遥は気持ちを教えてくれなかった。
絶対に遥があたしの事が好きだなんて確信はない。
遥は優しいからあたしが聞いても「うん、好きだよ」って返してくれるかもしれない。
だけど本当は遥の中にあたしの存在はあったとしても所詮、豆粒程度。
それなのにあたしは遥のことが大好きで、口付けをしてくれた度に同じ気持ちなのかなって一人で勝手に舞い上がって。
……そうだ。
あの頃もそうだった。
雅也にいきなりキスされた時だって。
あたしは雅也のことが好きだったからあの時「両思いだ」なんて感じて溢れ返りそうなくらいの喜びがあたしを襲ってた。
それからもキスをする度嬉しくて舞い上がってた。
………だから今はその罰が当たっているのかな。
ふと生暖かいものが頬を伝った。
何かななんて言うまでもない。
不安で仕方がない気持ちが重なって出た涙だ。
泣くなんて卑怯だってことくらいわかってる。
わかってるのに次々に流れてくる涙には敵わない。
眠る遥にソッと近付き心の中で呟いた。
―――ねぇ、遥。
遥の気持ちを教えて?
どうしてあたしに優しくするの?
どうしてあたしを抱き締めてくれるの?
どうしてあたしに口付けをしてくれるの?
あたしは遥の気持ちが知りたい。
あたしは遥が大好きなの。
好きで、好きで、好きすぎるの。
だから、ねぇ。
遥の口で、心で。
あたしに教えて……―――
「…づ、きちゃ…」
すると遥の眠そうな声が降ってきた。
眠たそうに頭をかきながら少し目を細めた遥があたしを見つめてくる。
反射的にあたしは俯く。
なぜなら泣き顔を見られたくなかったから。
せっかく可愛くしてきたのに、これじゃあ台無しになるから。
だけど。
「…くっ…ぅぅ…」
堪えきれない何かがあたしを押し寄せて唇を噛み締めながら糸は切れた。
力が抜けた足から崩れかけたあたしを何かが抱き締め、支えた。