恋結び【壱】


「遥は何歳?」

と、訪ねてみると。
笑顔で。

「忘れた」

と。
次に。

「遥、学校行かないの?」

すると、即答で。

「学校って何?」

笑顔で言う。
「そこからかよ!!」と、つっこみたくもなる。
その次も。

「彼女は?」
「好きな食べ物は?」
「この近くの海、泳いだ?」

と、聞くが。
全てが即答され、しかもつまらない答えばっかり。
それに笑顔で言われても困る。

「…はぁ、疲れた」

「お疲れ様」

溜め息を漏らし、項垂れるあたしに、遥は、何事も無かったように、あたしに微笑み返す。
「まったく、誰に疲れてるか、遥はわかってないのか」と、あたしは喉まできた言葉を無理に止めた。

「最後に一つ…いい?」

あたしは聞いてみた。
そう、これを一番聞いてみたかったのだ。
初めて逢ったとき、いや、たった今も。
遥と逢うたびに、不思議な気持ちと、どこか、遥か彼方に誘われるかのような感覚に陥る。

「遥って、何者…?」

真相を…聞きたい、のに。

「内緒」

遥の無邪気な笑顔に、負けてしまう。


ドクン。


ほら、また。
毎回毎回、この笑顔に。
あたしの心臓は大丈夫なのかと、心配になりながらも、あたしは、ただただ遥の笑った顔を見ていることしかできなかった。

「……ズルい…」

ボソッ、と。
呟くあたしを、喉をクツクツならし笑う遥。
その仕草や、その笑顔だって。



貴方はあたしのこの衝動に気付いていないのね。




雲一つない空を目で追ってみた。
少し眩しくて目を眩ます。
視界に入る、薄い桃色の木が見える。
それが春だと教えてくれる。

風の音しか聞こえない。
聞こえたとしても、呼吸音だけで。




このまま時間が止まればいいのに。


と、思った。
なぜだろうか。
あたしはどれだけ、この、場所が心地好いのか。
そう、思わせる、遥、は、何者なのだろうか。

あたしは青空から目をそらし、足元を見る。
足元には、ぶらつくあたしの脚と、ストン、と、流れている遥の脚。
透き通るような真っ白な肌が、あたしには眩しくてたまらない。

そんなあたしに気付いたのか、遥は俯くあたしの顔を除き込んだ。

「どうか、したの?」

「え!?な…何でも、ない…」

突然の遥の声に、あたしは、戸惑ってしまった。



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